平安時代の僧 空海(弘法大師)によって開かれた日本仏教(大乗仏教)のひとつです。
空海が三十一歳の時に、唐(中国)へ渡り、当時世界最大都市であったとも言われる長安(現 西安市)で、密教の第七祖である恵果和尚に全てを伝授され、正統の第八祖となり、日本へ密教を持ち帰ってきました。
密教とは、字の如く秘密の教えであります秘密仏教です。仏教の中にある密教であり、三密(身に印を結び、口に真言を唱え、意に本尊を念ずる)。この身のままで仏になるという即身成仏を説いています。
仏教には顕教と密教とあり、顕密両翼・顕密両輪の如くともいい、飛行機や車は片方だけでは進まないように、人も見る(顕教)だけでは理解することが出来ないこともあります。
真言は不思議なり 観誦すれば無明を除く
一字に千里を含み 即身に法如を証す
「般若心経秘鍵」
上記の文字を梵字と言います。仏教の聖地インドの旧語であるサンスクリット語でもあります。六世紀頃に中国より伝わり、日本では悉曇文字とも表します。元々梵字というものはインド哲学の宇宙の原理である梵天なる神が創った語であります。梵天とは仏教を守護する神様です。
この梵字には「真言は不思議なり…」と、ありますように私たち人間では想像を超えた神仏の功徳が一字一字にはあり、災難をも除ける力があり、招福なる力が宿っています。次に「観誦すれば...」とありますように、仏を心に観じ口で真言を唱えれば、煩悩を取り去ることが出来、この身をもって仏になる即身成仏(覚り得る者)することが出来るのです。
また、寺院や位牌、霊園など墓石の戒名(法名)に梵字が刻まれているのを目にされた方もおられると思います。こちらは成仏をしたという意味を表しております。
なぜ日本語で訳して梵字をサンスクリット語で唱えるのか不思議に感じる方もおられると思います。梵天なる神が創った文字には計り知れない効力があるため、日本語などで訳して唱えることは効果が薄れると考えます。だから、そのまま訳さずに梵語を音写しているのです。
このように弘法大師(空海)によって開かれた真言宗は、1200年を超えた今も多くの人々の安心なる生活(人生)を送っていただけるよう祈り続けるのです。
お大師さんのお言葉にこのようなことが、空海の願文に遺されております。
「虚空尽き 衆生尽き 涅槃尽きなば 我が願いも尽きなむ」
四恩(父母・衆生・国王・三宝)に報いたい空海の心願を表した言葉であり、意味は「宇宙が存在し 生きるものがいる限り そして救いがある限り 私は祈り続けます」と、言っております。『高野山万燈会』
この空海の願文により、空海に少しでも近づきたいと始まったのが四国八十八箇所の巡礼です。
四国八十八箇所 巡礼の様子
真言密教の「真言」とは、仏の真実の「ことば」を意味していますが、この「言葉(真言)」は、人間の言語活動では表現できない、この世界や様々な事象の深い意味、すなわち隠された秘密の意味を明らかにしています。
空海は、この隠された深い意味こそ真実であり、それを知ることのできる教えこそが密教です。真言宗では「生かせいのち」をスローガンとし、共利群生をモットーに、利他行で衆生を救うことに日々精進していくのが真言宗であります。
真言宗では「即身成仏・攘災招福」を大切にしております。あの世で仏になるなら、生きてる間に仏になってみようではないか、そして衆生を救うために災いを除け、福を招くことの祈願をする護摩祈祷。お坊さんといえば「煩悩・欲」を断つために修行を積んでいるように感じるお方は多いのではないでしょうか?わたしたち真言宗では欲は欲でも大欲をもちないさいとお教えいただいております。こういう風に聞くと「?」が浮かびますが、自己中心的な欲ではなく、他の人々を安心へ導くための欲を持つという意味です。他に徳を向けて、徳を回すことを仏教では「回向(えこう)」といいます。
人の苦しみはどこから来るのかご存知ですか?「迷い」から苦しみは生じています。道に迷ったときにどちらに行けばいいか分からないときもあります。それは人生を歩んでいく中で、色々な問題に選択を迫られる日々の連続です。迷うということは暗闇に陥っていることであり、山で遭難したなら暗闇では前に進むこともどちらを目指していけばいいかもわかりません。また、この迷い暗闇のことを「無明」といいます。般若心経秘鍵の中に「世間の闇を照らす明燈にして...」と記されております。般若心経には仏力が含まれていることが分かります。
生きている中で困難は人の影のように付きものです。困難打破なる暗闇に灯火を照らし、皆さまの人生を豊かに(済世利人)していくことを信念としております。
◇大師の誓願により二世の信心を決定すべし
◇四恩十善の教えを奉じ、人の人たる道を守るべし
◇因果必然の道理を信じ自他のいのちを生かすべし
済世利人・攘災招福・抜苦与楽を信念とし、衆生の救済に尽力し、皆様方を救い出し、無憂庵は無憂(安心)へと導きます。また無憂樹とはお釈迦様が無憂樹の下よりお生まれた仏教三大聖樹のひとつとしても有名です。
合掌